避難所運営の実態から学ぶ:平成28年熊本地震(千葉市)職員派遣報告(抜粋)

熊本大震災の対策実態から学ぶ

2016年(平成28年)4月14日21時26分以降に熊本県と大分県で相次いで大地震が発生しました。その救援作業に派遣された千葉市職員の報告書「平成28年熊本地震職員派遣の記録」があります。派遣された職員の目が見た震災後の対策の実態から、避難所に関連するする項目を抜粋しました。

※項目の番号は、派遣職員の報告書本文によります。

災害対策本部の状況

(1)被災自治体の機能不全(以下の項目は被災自治体に関しての抜粋)
× 情報が届かないことが多く、被災自治体職員も含め、テレビの放送で新しい情報を知ることが多かった。
× 日頃の業務において、本部業務と全く関連のない市職員(市立病院医療職スタッフ)が本部運営を担っており、本部内は非常に混乱をきたしている状況だった(医療救護本部)。
× 被災自治体職員の疲労が蓄積されており、休職者も多数出ているとの話があった。常に住民からの電話対応に追われ、休む暇がない状態であった。また、対応に追われるあまり職場環境も悪かった。
× 役場の職員も本来の業務がある中で、交替で避難所に詰めており、また、災害対策本部との情報共有がうまくいっているとは言い難い状況で、対応を決めるのが難しい部分があった。

避難所の運営について

(1)避難者の把握
避難者の出入りの確認が困難であり、避難者を正確に把握することはできなかった(短時間の外出まで含めてすべてを把握するのは困難)。
避難者名簿はただの氏名の羅列ではなく、氏名(縦列)と現在居所(横列)のマトリクス形式や、仮名順で名簿の頁を分ける等の管理しやすい工夫が必要であると感じた。

(2)車中泊への対応
聞き取り調査の結果、日中自宅内で生活していても、夜間は地震への恐怖のため、地区集会所や車中で睡眠をとる住民がいる。地震への恐怖による精神面の負担や車中泊によるエコノミークラス症候群の危険性などが潜在している。
避難者数の把握を食事配布カードによって行うことは、おおよその数値を把握するという点では、一定の評価ができるものの、自宅避難者、車中泊等を含めた正確な数値の把握はできていなかった。

(3)健康管理
避難所で過ごす方が抱える問題は住居や物資といったハード的なものよりも、ストレス等による精神面のソフト的なものになっている印象であった。被災者の抱えるソフト的な問題への対応の一つとして、応援職員が相談相手になることが考えられ、相談相手に選ばれるためには避難所である程度過ごし顔を覚えてもらうことが最低限必要になると感じた。

(4)衛生管理
地震から2週間を経過し、医療チーム体制が機能してきて「感染症が疑われる方」を隔離するなど感染症の発生は完全に抑えられていた。
感染症予防のためにトイレの清掃状況の確認、ドアノブ等の消毒、手洗い場の環境調整を行った。
被災自治体職員が1人体制で避難所本部の運営を担っており、避難所内の清掃や片づけ、衛生管理まで手が回らない状況。食品管理も不十分だった。
× 避難者の中からノロウイルスが発生して隔離が必要となったが、想定していなかったため、対応に苦慮した。
× 上下水道が回復した時点では、どの避難所でも洗濯機は設置されておらず、洗濯ができないため、避難者は不便を感じているとのことだった。
避難所においては平時から洗濯機置き場を設定し、早期に洗濯機を設置できる体制を整える必要があると感じた。

(5)トイレ
仮設トイレは和式ばかりで、洋式がなかった。
建物扉等で仕切りができるのであれば、要配慮者の利便を図るため、できるだけ建物に近接した場所にトイレを設置するのがよいと思われる。
車イスが入れるタイプの多目的仮設トイレ(防災トイレ)は全く見受けられなかった。仮設トイレを使用する避難所において、車イス利用者が利用できるトイレを最低1基は確保する必要があると感じた。
トイレのごみ箱がない、速乾性手指消毒の設置がないなど、感染症予防の取組みがなされていないため、環境整備を行った。
仮設トイレが支援物資として届くまでの間に対応するため、災害用トイレ、凝固剤を用いた簡易トイレ等を避難所に備蓄することが必要であると感じた(食事は我慢できるが、トイレは我慢できない)

(6)女性への配慮
× どの避難所にも設置されていなかったが、女性用仮設トイレの前には、目隠しを設置すべきである。
テントタイプの女子更衣室が2室設置されていた。
救援物資の配布は、男性職員ばかりだと、女性避難者が生理用品等を受け取りに来づらいと思った。救援物資配布・管理には女性を充てる又は単独での作業が困難な場合は男女一人ずつを充てるなどの配慮が必要であると感じた。
授乳室には、授乳、おむつ替えのため、段ボール製簡易ベッドを設置する必要があると感じた。

(7)ペットへの対応
アレルギーの有無、臭い、鳴き声などペットに対しての認識は様々であり、誰かに配慮すると他の者から苦情を受けるなど対応が難しかった。話し合いで解決した。
× ペットを連れて避難している避難者については、廊下にまとまって避難していただく等の対応をしているが、他の避難者から苦情が出ているとのことだった。
× 避難所にペットが持ち込まれており、今回、避難所でマダニに咬まれたという通告があった。ペットの取り扱いについて検討しておく必要があると感じた。
ペットを連れて避難する人のための対応として、備蓄物資の中に、屋外での使用に堪える簡易犬小屋等があれば、ペットがいることを気にして車中泊を行う避難者が減るのではないかと感じた。

(8)食事
配給されたおにぎりの保管方法等を避難所管理者に確認して食中毒予防に努めた。
避難所の状況を把握したうえで、毎食分の食料を自衛隊に必要な数だけ発注していたが、余ってしまうことが何度かあった。
避難所が提供する食事は自治体があらかじめ業者に対し1週間分程度を発注しており、この後から炊き出しの予定が入ることがあったため、自治体が準備した食事や炊き出しの廃棄がしばしば起きた。
現地で残によるロスが問題となっていたが、食品流通同様、一定のロスは許容すべきことをマニュアルに記載し、情報共有が必要であると感じた。
派遣期間中にいくつかの団体が炊き出しを行っていたが、食に対する素人からプロまで様々な集団があり、衛生的な面で大丈夫なのか不安な面があった。
民間の炊き出し受入れに当たり、保健所職員が災害対策本部等を訪問し、受け入れる場合の条件(食品衛生法上は規定がないが、食品衛生管理者を有する団体に限った方が良い)等について説明を実施していた。
保健所の業務に市町村災害対策本部への炊き出しに対する助言についても入れる必要があると思われる。
食事は、朝はおにぎり、昼はパン、夜は弁当と決まっていたが、避難所生活が長期に及ぶと栄養面での配慮が必要と感じた。

(9)自主運営
× 派遣された避難所では自主運営については、全くできていなかった。
避難所の自主運営については、地域内の自主防災組織がなかったこと等からすぐに始めることは難しいと想定されていたが、ミーティングで前向きな意見も多くみられ、リーダーや大まかな組織体制についてもスムーズに話が進んだ。
派遣職員が行っていた清掃や物資管理等の業務の多くを自主運営に切り替えていくことができた。
避難所の運営は、徐々に行政主導の運営から避難者による自主運営へとシフトしてゆくべきという考えのもとに運営の方向を決めていたが、行政の考えとは異なることから、リーダーと他の避難所職員が衝突している様子が見られた。
食事を提供する際に、避難者のためにと配膳まで手伝ったが、長期的な視点で考えると、避難者ができることは避難者にしてもらい、行政の職員は行政にしかできないことに注力すべきだと思った。
避難者の中からリーダー、サブリーダーは選出されていたが、リーダーとなった方がいつまで当該避難所にいるか不明の中、自主運営を行うことは困難ではないかと感じた。
具体的な班編成を住民の方々で決めていただくことにしたが、リーダーが仕事で不在の時間があり、思うように進まなかった。
「危機管理アドバイザー」等第三者の活用や、他県応援隊の協力を得て、できるだけ早期に「避難所ミーティング」等を開催し、避難者への意識付けを行う必要があると感じた。
避難所が小学校であったためか小中学生が集まりやすい環境であり、子どもたちが食事の配膳等をよく手伝ってくれた。子どもたちの手伝う姿は大人にも良い影響を及ぼしており、自主運営に向けてプラスの方向に働いていたと思う。
避難所の組織的な自主運営にあたっては、地域の区長、民生委員等を通じた事前の調整も必要であると感じた。

(10)プライバシーの確保
避難所となっていた体育館では、世帯ごとにカーテンで間仕切り、プライバシーが確保されていた。
間仕切りのある避難所とない避難所があり、ない避難所では顔見知りの高齢者から不要の申し出があったところもあった。
間仕切りがないため、入口付近の冷気や風の吹き込みも気になった。段ボールによるつい立て作成を紹介し、しのいでいた。
段ボール製仕切りの生産者は限られているため、物流がほぼ回復した現地であっても、被災後の早期に、大量に確保することは困難である。被災前から、各備蓄倉庫等において十分な数を備蓄することが必要であると考える。

(11)要配慮者
× 被災自治体の要援護者システムが適切に作動せず、要援護者の情報提供がなかった。
× 避難所で、特に支援が必要な人(要介護者等)の把握ができていなかった。
一般の方は体育館、要介護の方々は視聴覚室にそれぞれ避難していたが、視聴覚室は体育館と離れていたため、支援物資の受け取り等改善の余地はあったと思う。
避難所では運営方法等について避難者から不満や改善要求があった(乳幼児への配慮不足など)。
赤ちゃんが少ない避難所だったので、おむつや離乳食などが大量に余っていた。
子どもたちの遊ぶ場所がなく、避難所を走り回っていたので危険だと感じた。

(12)福祉避難所
× 3箇所の福祉避難所を指定していたが、福祉避難所に対しては職員の派遣を行っておらず、避難者数以外の状況については災害対策本部では把握されていなかった。
1福祉避難所において3名の要介護者が滞在しているものの、介護は一緒に避難している家族が行っているとのことだった。その福祉避難所に避難していた、その3名以外の65名の避難者については要介護者ではない、ほとんど受け入れることができない。
支援が不要な避難者をスムーズに一般の避難所に移動させる方策を検討する必要があると感じた。